「route」の発音はルートとラウト!?
J. C. Wellsの「Longman Pronunciation Dictionary」
英語アナウンサーには必携の書
日本で英語を学んだ方がアメリカで生活したりすると、突然耳にしてびっくりするのがこの単語の発音。そう、「route」(道、道筋)です。
日本の学校教育で多くの皆さんが習っている発音は [ru:t](ルート)ではないでしょうか。
この発音、イギリスの標準的な発音ではほぼその通りなのですが、アメリカでは[raʊt](ラウト)と発音をする人も結構いて、この発音を聞いて「え?そういう発音ってあったの?」と初めて気づく方も多いんです。実際に例えば研究社の「新英和中辞典」を手に取ってみると、アメリカ英語の場合の発音は/rúːt, rάʊt/となっており、両方が併記されています。
英語を母語としない人間が、どちらの発音をとったらいいのかと迷う場合は、基本的に辞書の発音で最初に表示されているほうを取った方が間違いないというのは原則。
迷ったり、より詳しく知りたい場合は、J.C.Wellsの「Longman Pronunciation Dictionary」をチェックします。
すると、イギリスでは [ru:t]の発音が主流で[raʊt]の発音は限られた場面でのみ使用されるとなっていますが、アメリカでは[ru:t]の発音が68%。そして[raʊt]の発音が32%と、統計数値が掲載されています。32%って少ないという印象を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、実際に考えてみるとアメリカ人が3人いたとして、1人は[raʊt]と発音するわけで、かなりな割合です。
とはいえ、アメリカだけではなく英語圏全体を対象とするアナウンサーとしては [ru:t]の発音を取っておいた方が無難という見方もあります。もちろん、出身がアメリカであれば[raʊt]を取るのもありです。
ある時、アメリカ出身の仕事仲間と話していたら、彼はアメリカでは絶対[raʊt]の方が主流だと主張するんです。
もちろん、上記のようにちゃんとした統計の調査結果があるので、彼の主張は実際とは異なるとわかっているのですが。
そこで、実際にどうなのか、いや、少なくともメディアではどうなのか、彼を納得させるため、仕事がオフの日に時間をかけてちょっとした調査をしてみました。
アメリカの公共ラジオ放送、National Public Radio は日本での知名度はなぜか低いのですが、その報道の質の高さで知識人の間で良い評価を受けている放送です。しかもネットではオンデマンドで過去の放送の大部分の音声と原稿が表示されるのです。そこで、過去1年間、放送の中でこの単語が使われた時にどの発音が使われていたかを調べてみました。さすがに母数を大きくとるのは、時間がかかって大変なので、検索で出てきた中から上位10例を見てみます。また、原稿で必ず確認できる記事のみにしました(一部の番組は原稿がなく、音声だけ、あるいはその逆ということがあります)。
以下、10の音声を聞いていました。
01. April 20, 2016 4:29 PM ET All Things Considered Robert Siegel (Host)
02. April 20, 2016 4:29 PM ET All Things Considered Philip Reeves (Reporter)
03. March 13, 2016 5:57 PM ET All Things Considered Michel Martin (Host)
04. March 9, 2016 5:08 AM ET Morning Edition DAVID GREENE (Host)
05. February 2, 2016 4:25 PM ET All Things Considered Joanna Kakissis (Reporter)
06. September 6, 2015 8:13 AM ET Weekend Edition Sunday (Host)
07. September 6, 2015 8:13 AM ET Weekend Edition Sunday Luren Frayer (Reporter)
08. August 17, 2015 4: 20 PM ET All Things Considered Audie Cornish (Host)
09. August 12, 2015 1:33 PM ET Fresh Air Terry Gross (Host)
10. April 26, 2015 7:42 AM ET Weekend Edition Sunday Rachel Martin (Host)
さて、結果発表!
ここをクリックして実際の音声を聞いてみて下さい。1から10まで順に聞こえてきます。
そうなんです。
[raʊt]は05と07の2例のみ。あとはすべて[ru:t]の発音でした!!
J.C. Wellsの統計に近い結果となりました。
また、[raʊt]の発音は、いずれもReporter(記者)の発音であり、日ごろから発音のdeliveryにより気をつけているであろうHost(キャスター)たちはいずれも[ru:t]だったことを考えると、自分としては今後も[ru:t]の発音をしておこうかな……と判断します。
もちろん、前述のように[raʊt]を使う事も「有り」でしょう。だって、実際に多く使われている発音であるのは間違いないのですから。
いずれにしても、同僚の主張は覆りました。彼がなぜそう信じていたのか……。もしかしたら、地域性があるのかもしれませんね。アメリカで彼が生活していた地域では[raʊt]の発音が主流なのかもしれません。それは十分に考え得ることです。
アメリカ人が母語である英語について主張しているのだから間違いないという思い込みには注意が必要です。日本人だって、日本語のこと、間違って理解していることは多いのですから……。
教訓として、どんな場合もうのみにせず、調査して、自分の耳で確かめることが大切です。いまはネットという武器でそれが可能ですから良い時代ですね。