Melbourne や Newfoundland の発音をめぐって考えること

2022年3月20日

美しい街の名前、実は発音では意外なことが

日本語でも「本庄」のアクセントがかつて話題に

地名というのはいろいろと難しい要素があり、アナウンサーにとっては悩みの種です。

特に一般的に広まっている発音と現地での発音やアクセントが違うという場合です。言語そのものが違えば音の体系が違うので仕方ないとは思うのですが、同じ言語の場合は困りますよね。

日本語でいえば、例えば「本庄」という地名や人名を頭高型で発音するのか、それとも平板型で発音するのかという違いにも似ているかもしれません。ご存知の方も多いかもしれませんが、一般的には頭高型、つまり「ほ」にアクセントを置いて発音する人は多いと思います。「根性」と同じアクセントですね。しかし地名で埼玉県の市、「本庄」ではどうでしょう?

長年にわたり本庄の方々はテレビやラジオで聞く自分たちの郷土の名前を悲しく思っていたそうです。そうなんです。地元では平板型、つまり「温情」と同じアクセントなんです(この単語による説明は市民の方が市長さんに書いた手紙での説明だそうです。とてもわかりやすいですね!)。

2020年、地元の訴えがようやく実を結び、JRの駅名アナウンスが頭高型から平板型に変更されました。NHKの「日本語発音アクセント新辞典」でも埼玉県の「本庄」の場合は平板型と明記されています。

こんなPRビデオも有名です。
https://www.youtube.com/watch?v=71kkFYXzazE

Melbourne のオーストラリアでの発音

さて、タイトルにある英語の地名 Melbourne です。皆さんご存知の通りオーストラリアの都市。

問題はアクセントではなく、後半、第二音節の発音です。

綴りから想像すると[ˈmel bɔː(r)n]となるように思うじゃないですか。実際に欧米の英語メディアではその発音を使っている事も多いのです。

しかし……、

現地では[ˈmelb ən]なんです。そう、曖昧母音の[ə]。あえてカタカナに置き換えて説明すれば、「メルボーン」と発音すると思いきや、実際には「メルブン」という感じです。
こちらの動画、0:18あたりをご覧下さい。現地のテレビ局が放送する気象コーナーです。
https://www.youtube.com/watch?v=Gr8ShkFnChA

これはオーストラリアに滞在した方でないと、なかなか気付かない事実です。私の場合はたまたまBCL(海外放送聴取者)だったものですから、中学時代から英語短波放送 Radio Australia を愛聴していたので知っていました。なにせ、Radio Australia の本拠地があるのが Melbourne だったんです。ですから放送中に何度もアナウンスされているのを聞いていました。(ちなみにこんな放送でしたhttps://www.youtube.com/watch?v=PKUsl7PZNr4&t=92s

どちらの音を選ぶのか?

さて、英語アナウンサーとして自分はどの発音を使うべきかという点で最初は悩みました。

もちろん、[ˈmel bɔː(r)n]を使っても間違いじゃないし、むしろ英語圏では多くの人が使っている発音です。ちなみに偶然アメリカにも同じ地名があり、そちらも[ˈmel bɔːrn]のようです。

「多くの人が使う発音に従っておけば問題ない!」

これは鉄則です。

でも……。

そう、この「でも」が大切。

地名の場合にはちょっと事情が異なります。しかもリスナー、視聴者が全世界に広がる場合には。

自分のアナウンスを聞く人の事を考えると、国際放送ですから、オーストラリアで聞いてらっしゃる、あるいは見ていらっしゃる方々も当然多いのです。そうなると、やっぱり現地の音を大切にしてあげたいですよね。

ということで私の場合、オーストラリアの都市を指す場合には放送でも[ˈmelb ən]を使っていました。

もちろんオーストラリアの視聴者やリスナーには「当然!」と受け止められたかもしれません。一方でアメリカやイギリスなど他の英語圏の方は「不思議な発音をするね。このアナウンサーの発音、間違ってない?」と思われたかもしれません。もっともイギリスではかつての大英帝国の名残で[ˈmelb ən]がオーストラリアでの発音ということを知っている人も多いかもしれませんが。とはいえ、イギリス国内にもMelbourneという地名があり[ˈmel bɔːn]と発音されるので、事は複雑です。(-_-;)

細かいこだわりですが、国際放送のアナウンスならではの悩ましいポイントでした。

Newfoundland のカナダでの発音

こうした事例、他にも結構あるものなんです。カナダに Newfoundland という地名があります。おそらく一般的には[ˈnjuːf ənd lənd]と最初の音節にアクセントを置くと思うのですが、カナダでは[ˌnjuːf ənd ˈlænd]と第1音節には第二アクセント、第3音節に第1アクセントが来ます。当然アクセントが置かれるために第3音節の母音も変化し、曖昧母音ではなく、はっきりとした母音に変化します。(さらに言えば、犬の種類でニューファンドランド犬の場合は[njuː ˈfaʊnd lənd]と、これまた別の発音が一般的のようですので、話はさらにややこしくなります!)

カナダの公共放送 Canadian Broadcasting Corporation のニュースでもそれがわかります。0:27あたりをご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=5uXCHAeU5Kk
こちらは天気予報。0:05あたりをご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=vXsYezEOBcs

これ、カナダ人以外はあまり知らない事実です。こちらは私が若い頃 Radio Canada International という放送局で研修をしていた頃、当時カナダでの最初の師匠であった Jim Craig さんの発音を聞いてビックリしたのがこの発音との最初の出会いです。

そして、NHKに戻ってからも、カナダの方々がリスナーや視聴者にいらっしゃるわけなので、[ˌnjuːf ənd ˈlænd]の発音を自分としては採用していました。

ところで、ありがたいのは以前にも触れた J.C.Wells の「Longman Pronunciation Dictionary」。この辞書にはこの2つの例も含め、かなりの割合で現地音の記載があります。ニュースを読む時には大いに役に立ちました。

どんな発音でも、アナウンサーとして実際に読まなければならない場合には、やはり調べてみることが必要です。それが地名や人名の固有名詞である場合には特に大切ですね!