難しいと言われる「th」の発音、実は簡単だった?
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「th」の音に関する問題の本質
英語の発音を学ぶときに、必ず「日本人にとって難しい音」として出てくるのが「th」の音です。発音記号で記すと[ð]と[θ]の音です。この項目ではわかりやすく書くために「th」と記しますね。
私が発音指導をしていた企業で指導の同僚にカナダ人がいました。日本人のクセを知り尽くしたとても優秀な方です。
彼も、この発音に関してはとても嘆いていました。そう、やっぱり日本人の多くは「th」の音がダメだというのです。
ですから、日本人の発音の大きな問題の一つにこの音があることは間違いありません。
でも、実はこの音そのものは出すことは簡単なんです。後ほど説明しますね。
問題は、なぜその簡単な音を日本人はできない、あるいは難しく感じるのか。
実はこれに関しては2つの問題が絡んでいると私は思うんです。そのことによって、本来はとても簡単なはずの「th」の音が日本人にとって大問題になっているのかもしれないと。
それは以下の通りです。
1.音そのものの出し方に関する勘違い
2.音の置き換えに伴う問題
説明しますね。
本質その1~音の出し方に関する勘違い
「勘違い」というのは、皆さんよくご存知の「thの音は舌先を上下の歯で噛んで出す」という説明。
おそらく私と同世代の方なら中学校の英語の授業で最初にこう習った方も多いと思います。
実際にその通りやってみると、できないことはないけど面倒。そうとってもやっかいです。
しかも、thの音というのは英語では実に沢山出てきます。そのたびに舌を噛んでいたら間に合わない!!いや、ヘタすると舌を強く噛んで流血の騒ぎになってしまいます。
英語って命がけだ……。(ちょいと大げさですが)
そう思ってひるんでしまう人も。その結果どうなるか。
本質その2~音の置き換えの問題
そうなんです。thの音を楽に発音できる「サ行」や「ザ行」の音に置き換えてしまうんです。
こうなるともう、絶対にダメです!
英語の母語話者にとって「サ行やザ行の音がthの置き換えとして使われている」という認識はできにくいのです。むしろ別の音であれば、まだ良いかもしれないものを……。
例えば「think」という単語を「シンク」と置き換えてしまうと、まず、間違いなく誤解されます。一方で、もしこれを「フィンク」と発音すれば、もしかしたら理解してもらえるかもしれません。実際にそういう例がイギリスで報告されています。
その音の感覚が全く異なるという事実、これがまず大きな問題なんです。
置き換えるべき音を間違っている。
なぜ?
そう、日本語でよく使われるカタカナ表記。あれがこの音に関しては実に大きな問題となってしまっているんです!
というわけで、この音に関してはカタカナへの音の置き換えは絶対だめ。
でも、言われたとおり発音するのは面倒だし、やっかい。
どうしよう?
というときに、1.に戻ってよ~く考えてみます。
シンプルな疑問が出てきます。
「本当に舌を噛まなきゃイケナイの?」
実は、解決法はそこがポイント!
とても簡単だった解決法
実は多くの人の場合、噛まなくていいんです(キッパリ)。
「えええ???」
と、のけぞったあなた。
いいんです。大多数の人は、噛まなくても。
舌は噛まなくていい。ただ、舌先を上の前歯の裏側、もしくは先にちょいと当てるだけ。
どうです?これならさほど面倒じゃないんじゃないですか?
このやり方なら「th、th、th、th、th……」と素早く連発で発音することも可能でしょ?
「ちょっと待った!これで本当に通じるの?」
と思ったあなた。大丈夫です。実際に花田はこの方法でず~っとアナウンスしていましたもん。(^^)
ん?
じゃ、ズルしてたの?
いえいえ。実はこれには種明かしがあるんです。
舌先を上の歯の前歯に軽く当てたままにしてみてください。口は大きくは開かないで。
下の前歯はどうなっています?
はい。その通り。大多数の方の場合、舌の裏側に当たっているハズです。
そう、知らず知らずのうちに上下の歯で舌を挟む格好になっていたんです。
これは多くの人で下あごが上あごよりも、手前にくるという物理的な理由からできているんです。
だから、「噛まなくていい」、「当てればいい」となります。
これ、言葉のアヤのように聞こえますが、今までのこの「噛む」という教え方が諸悪の根源だったという人もいます。
そもそも「th」の音は英語では頻繁に出てくる音です。よく使う音にわざわざ物理的に難しい発音をさせるというのは、言葉のメカニズムからして考えにくいじゃないですか。自然の摂理に反しているとも言えます。頻繁に登場する音こそ、発音は簡単でなければならない。そういう理屈は多くの言語で成り立つのではないでしょうか。
舌を噛むというのはウソ?
「じゃ、噛まなくていいんだ!」
タイトルのように「ウソ」というのは言い過ぎだとしたら、こう言い換えましょう。
「少なくとも、必ず意識して噛まなきゃいけないということではない」
と思います。
ただ、英語の母語話者にしても、「ゆっくり発音してください!」とお願いすれば、きっと、大げさにわざと噛んだり、挟んで見せると思うのです。それが親切な指導だということじゃないでしょうか。日本語だってそうですよね。幼児に言葉を教えるときには大げさに発音してみせたりしますよね。それと同じ事だと思います。
しかし、実際のスピードの会話になると、そんな風にはできませんから、上の前歯の裏にちょこんと当てるだけというのが実際に言語を運用するときの「秘訣」となると思います。
実際に英語で書かれた指導を見ても、例えば、インターネットでアメリカのサイト「pronunciaiton.com」を見てみると、「the tip of the tongue is placed behind the top front teeth」と書かれていることから、この教え方は英語母語話者の指導としても決して間違いではないとわかります。
置き換えを防ぐためにすべきこと
ただ、いままで皆さん「サ行」や「ザ行」の置き換えにすっかりと慣れていらっしゃるので、ここでもう一工夫必要です。
たとえば上のように、A4サイズの紙一枚に書かれた英文があります。簡単な英文で読むと3~40秒くらいのものです。でも、ご覧のように「th」の発音というのは沢山出ています。理屈でわかったからと言っても、今までの「慣れ」があるので、いきなり全部を正しく読めるようになるというのは、ちょっと難しい。
そこで、一旦、その英文に目を通していただいて、「th」の出てくる部分に全部アンダーラインやマーカーで印をつけて目立たせます。その上で、置き換えをせぬよう、その部分が来ると、意識して舌先を当てて読ませます。この方法で2~3度全文を読ませると、それだけでthに対する注意の意識回路が自然と出てきます。人間というのは凄い修正能力を持っていますねぇ!そして、それを何度か経験させれば、もう、ほぼ完璧にthの音が出せるようになるんです。実に簡単に矯正できるんです!
実際の効果
このことを私の指導でも教え始めて以降、教えた方々の反応を数多く見てきましたが、皆さん、最初はそのシンプルな指導に怪訝な顔をされます。いかに「噛む」「挟む」という指導が一般化していたかを示す好事例だと思いいました。
そして、「当てるだけ」という、その指導の通りに発音させてみたときの皆さんの「驚き」の表情。
驚きながらも「できた!」という喜びの笑顔。
これは私にとっては毎回ご褒美でした。本当に皆さん、感心してくださいます。
さて、前述の同僚、本当に優秀な方で私もとても尊敬しています。でも、あるとき、彼が指導しても「th」の発音がどうしてもうまくいかない受講者がいるという事で、その方の指導を私が引き継ぎました。上記の方法で1時間半ほど教えてみたところ、とてもうまく発音できるようになりました。翌日、彼がとても驚いた表情で「すごい!1日であっという間に彼はtheが発音できるようになった。どう教えたの?」と不思議そうな顔をしていたのを思い出します。
英語の発音、こんなちょっとした認識の変化で劇的に変わると言うことはあるものです。他にも「f」の発音についても似たような事例があるのですが、それはまた別の機会に!
というわけで、今回は「th」の発音についてのお話でした。
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おことわり:
・このブログでは正確には「日本語母語話者」と表記すべきところ、長くなりますので、「日本人」で表記しています。他に意図はありませんので、ご承知おきください。
・冒頭に書いたとおり、この項目では本来発音記号で/ð/と/θ/と記すべきところ、わかりやすくするために、「th」の音と表記しました。